呼吸器科の外来には、咳(せき)や痰(たん)が長期間にわたって続くために受診される患者さんが少なくありません。慢性の咳(せき)、痰(たん)の原因となる疾患は数多くあり、同じ症状であっても疾患によって治療は全く異なります。
よく見受けられるのが、風邪をひいたあとに、熱や喉の痛みは消えたのに咳(せき)や痰(たん)が何週間も続くという場合です。
このような患者さんでは、元々何らかのアレルギー素因があったり、別の肺疾患を合併していたりすることが少なくありませんので、アレルギー検査や胸部画像診断が必要になります。
特に風邪をひいたわけでもないのに数週間、数ヶ月前から続いている咳(せき)、痰(たん)の場合には、肺癌や肺結核のようにゆっくりと進行していく肺疾患も考えなければなりません。
早めの胸部画像診断や喀痰の検査が必要になります。
何年も前から日常的に咳(せき)や痰(たん)が多い患者さんもいます。
このような長期間にわたる慢性の咳(せき)、痰(たん)で最もよく見られるのが喫煙者の場合です。
前述したように、喫煙者の場合はこのような咳(せき)、痰(たん)がCOPDの初期症状である可能性があります。
特に、労作時の息切れを伴っている場合にはCOPDの可能性が高いと考えられますので、タバコを吸っているせいだと軽く考えずに、早めに肺機能検査、画像診断を受けることをお勧めします。
COPDと同様に咳、労作時の息切れを認める疾患として重要な疾患が肺線維症です。
肺線維症の場合にはCOPDと違って痰を伴わない咳(乾性咳)が特徴的です。
咳、労作時の息切れを認めるところはCOPDと似ていますが、肺機能、胸部画像所見ではCOPDとは全く異なった所見を認め、治療法も全く異なっています。
気管支喘息の場合にも咳(せき)、痰(たん)だけが症状の場合もあります。咳喘息(Cough
Variant Asthma; CVA)という呼び方をしますが、喘鳴(ぜんそく)がないためになかなか気管支喘息という診断にたどり着かない場合が少なくありません。
アトピー型喘息の場合も非アトピー型喘息の場合もあるため、アレルギーの検査だけでは確定診断できない場合もあります。
通常の喘息(ぜんそく)でも陽性となる気道過敏性試験という特殊な検査を行っての診断が必要です。
咳喘息の場合も通常の気管支喘息と同様に気管支拡張剤や吸入ステロイド、抗アレルギー剤などの治療を行います。
咳喘息とよく似た疾患で、アトピー性咳嗽と呼ばれる疾患も慢性の咳(せき)、痰(たん)の原因として有名です。
こちらの場合には気道過敏性試験は陰性で、喘息(ぜんそく)とは違って抗ヒスタミン剤という、アレルギー性鼻炎でよく用いられる薬剤での治療が有効です。
慢性の咳(せき)、痰(たん)を認める疾患の中で、痰が主症状の場合、特に黄色や緑色の汚い痰を慢性的に認める場合には気管支拡張症の可能性があります。
気管支拡張症は気管支の一部が異常に拡張する疾患です。拡張した気管支では痰の排泄能力が低下して痰(たん)が貯留するため細菌が繁殖しやすくなり、細菌が繁殖した汚い痰が持続的に出るようになります。
先天性の場合も後天性の場合もありますが、小児期にかかった重症の肺炎が原因となる場合や結核や肺化膿症に続発したもの、慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)に合併したものなどがよく見られます。
拡張した気管支では血管の増生が起こるため、感染が悪くなると気管支表面の血管が破れて血痰や喀血を起こすことが少なくありません。
気管支拡張症のような慢性の気道感染症に対しては、去痰剤などで気道をクリーニングするのと同時に、マクロライド系抗生物質を少量で持続的に投与する治療法が有効です。
これらの治療は痰(たん)の分泌を減らすと同時に、血痰、喀血のリスクを減らす効果があります。
ここまでに述べてきた慢性の咳、痰の原因はすべて肺疾患でしたが、肺疾患以外でも慢性の咳、痰(たん)の原因となるものがあります。
代表的なものとしては逆流性食道炎があります。逆流性食道炎は、高齢者で胃・食道接合部(噴門部)の締りが悪くなったり、食道裂孔ヘルニアを起こしている場合に、胃酸が食道内に逆流することによって起こります。
主な症状は胸焼けや胸痛ですが、慢性の咳を認める場合があります。
逆流した胃酸が食道下部にある迷走神経を刺激して咳を発生させると考えられています。 |